鈴木大介さんというライターさん。
私たちの世界に近接している分野の方は目にされたことがあるライターさんかもしれません。「最貧困女子」など社会の「底辺」といわれるところで生活している方たちの現状をルポという形でこれまでも多く取材し、発信してきた方のお一人です。
この本、その彼の仕事のスタンスをもろに反映した形で書かれていますが、中味は高次脳機能障害体験記になっています。一体験記としては、「体験記」としての意味としてのそれぞれの評価がありますが、一番興味深いのは、彼が自分が苦しんでいる症状が、これまで取材などを通して接してきた方たちの「症状」に類似していることに気づくところです。彼の表現をお借りすれば「苦しみを他者に伝えられない」ことであり、目線をあわせて会話ができない、などの症状の共通性を高次脳機能障害と発達障害の共通性や精神疾患をかかえる女性、虐待をうけて育ってきた方の症状との共通性を自分の症状としてのべていくのである。
P232 「やはり原因が脳梗塞であれ脳出血であれ、脳外傷や先天的障害であれ、脳を壊した人間の感覚やパーソナリティの表出には、共通性がある。」
彼はリハビリ医療(←この言い方には違和感があるが)に対して、高齢者にだけ消費されるリハビリをもっと、自分たちが出会っているこどもたち、青年たちにまわしてほしいという。それは、自分が体験したリハビリを発達障害や精神疾患などをかかえるこどもたちのために活用として欲しいと体験から思うからだと。
まさに、これはいま私(たち)が、高次脳機能障害とともに取り組んでいる視点と共通する。
そして、それは批判をおそれずにいえば、いまのリハビリが病院内視点にどんどんと押し込められていて、細分化縦割りになり、トータルな生活的視点を失っていることにもなる。また、リハビリの一番大きな「要因」の一つであるメンタリティーの課題をつきつける。病院での「患者」(役割)でなく、社会復帰したい、社会へ参加したいとおもう「回復(recover)」者へのリハビリの可能性をみせてくれる。
ぜひ、福祉、療育、リハビリにかかわる専門職のみなさんに読んで欲しい一冊である。
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